新と響の物語を、これから読む人へ
——『深夜0時のディールログ』までの道のり
『深夜0時のディールログ』全12話、完結しました。
読み終えてくれた人へ。 そして、これから読む人へ。
新と響——ふたりの物語は、ディールログの中だけにあるわけじゃありません。
1994年の出会いから、2024年の再会まで。
三十年の時間に、いくつもの物語が散らばっています。
順番に読まなくても構いません。
ただ、もしこの机を一巡してみたいなら—— こんな道筋があります。
それぞれの物語は独立しているように見えて、 ある一夜の星空の下で、静かに交差している。 そんな仕掛けが、どこかに置かれているかもしれません。
①うたた寝列車——彼女が教えてくれた、甘い睡魔の謎
1990年代半ば。滋賀の大学に通う大学2年生の「僕」は、 ある朝、友人に呼び出され、いつもより早い時間の電車に乗り込んだ。
空いている席を見つけて腰を下ろした途端、 抗えないほどの強烈な睡魔が、僕を襲う。
気がつけば、見慣れない駅?!で目を覚ましていた。
「この時間帯のこの車両、座ると絶対にうたた寝するんですよ」
呆然とする僕に、見知らぬ女子学生が声をかけてくる。
彼女もまた同じ大学の学生で、どうやらこの不思議な現象を、 そして「僕」のことも、以前から知っているらしい——。
ポケベルが連絡ツールだった時代の、 ささやかで、どこか不思議な、出会いの一日。
すべての始まりは、ここにあります。
▶ TALES:うたた寝列車~彼女が教えてくれた、甘い睡魔の謎~
②魚舞い上がる川
うたた寝列車の出会いから、二週間後。
ポケベルで(オハヨー)(アツイネ)と、 短いメッセージを交わすだけの、もどかしい日々が続いていた。
そんなある初夏の土曜日、響は思い切ってメッセージを送る。
(キミノウマレタ)(マチヲミテミタイ)(キョウアエル?)
待ち合わせの駅へと向かう電車のなか、 彼女は今までで一番大胆な自分を、確かめていた。 心臓の鼓動と、不安と、それでも止められない衝動と。
そして、ふたりが訪れた神崎川で—— 小さな、けれどたしかな奇跡が起こる。
響の視点で語られる、響の心の動きで描かれる、 1990年代半ばの、少し不器用な恋の始まり。
▶ TALES:【魚舞い上がる川】
③バスに乗ったら30年後の未来に行ったお話
199X年の夏。
新は、付き合い始めたばかりの彼女・響を、 地元の花火大会——「水都祭」のデートに誘った。
ふたりにとって、最高に幸せな一日になるはずだった。
花火大会へ向かうバスの車内で、 他愛のない会話、はにかむ笑顔、そして二人きりになった後部座席で交わされる甘いキス。
響が新の名前を初めて口にした瞬間、二人の未来は輝いて見えた。
しかし、その絶頂は突如として引き裂かれる。
ズン、と車体を揺るがす謎の衝撃。
異様な雰囲気に包まれたままバスを降りると、 そこは、新の知る街と似ているようで、どこか違和感を感じる、 知らない街だった。
すれ違う人々は、誰もが顔をマスクで覆い、 見たこともない薄い板に向かって話している。
そして、ふたりが手にした夕刊新聞には——【202X年】の文字。
「僕たちは、30年後の未来に迷い込んでしまいました」
時空に引き裂かれた恋人たちが織りなす、 甘くて、切なくて、少しだけ謎めいた物語。
そして、ここから新&響ユニバースの根が、 静かに広がり始めます。
▶ TALES:バスに乗ったら30年後の未来に行ったお話
④花火のエンドロール、きみとのプロローグ
未来から戻ってきたふたりは、 そのまま約束通り、【水都祭】花火大会へ。
夏の夜空を彩る、最後の花火が闇に溶ける——。
恋人たちの甘い時間は、永遠に続くかのように思われた。
物語前半、花火大会後の河川敷で描かれるのは、 どこにでもいる恋人たちの愛おしい時間の積み重ね。 親友・七瀨桂の登場により、 二人の輝かしい未来を予感させる、微笑ましいエピソード。
しかし、本当の物語は、ここから始まります。
七瀬の口から語られる、二人の「招かれざる客」。
新の過去を知る元カノ・六波羅菜穂。
そして、響の知られざる記憶を司る少女・三国千秋。
『六波羅』『三国』『七瀬』——そして『神足』。
散りばめられた名前が意味するものとは何か。 なぜ彼女たちは現れたのか。
そして、千秋が残した「確実に近づいている」という言葉の真意は。
これまでの物語の「最終回」であり、新章の「序章」となる、 新&響ユニバースの転換点。
水都祭の一夜が、ふたりの世界に静かな亀裂を入れる。
▶ TALES:花火のエンドロール、きみとのプロローグ
⑤深夜0時のディールログ——会話が未来に”証拠”として残る物語
1994年。
大学生の新は、公衆電話からポケベルに合図を送った。
「イマデンワOK」——たった十文字。
けれど恋人の響の画面には、送ったはずのない文字が表示されていた。
「0ジデンワOK」
そして新の口から、自分の意思とは無関係に言葉がこぼれる。
「三十年後の同じ日付、0時ちょうどに、電話する」
二人は約束を交わした。 呼び方だけは、絶対に落とさない——と。
三十年後の2024年。 響は記憶障害で眠り続けている。
十年間、一度も目を覚まさない。
新は毎晩、病室のベッド脇に座り、彼女の名前を呼ぶ。
返事は、ない。 けれど深夜0時を過ぎると、何かが起きる。
これは、「会話」が奪われる物語。
“同意”や”規約”を介して、声が、言葉が、呼び方が、外部へ移っていく。
編集される。再配布される。 そして——持ち主が、書き換えられる。
声を奪われた妻を、夫はどうやって取り戻すのか。 三十年越しの約束は、届くのか。
毎話、深夜23:59の病室から始まり、 1994年の過去へ遡り、0:00の病室へ戻る。
巻末には「EDL(会話案件の観測記録)」として、 その話で起きた現象が記録される。
ユニバースの一つの結節点であり、 ふたりの物語の「現在地」です。
——深夜0時に、また。
▶ TALES:深夜0時のディールログ
長い旅になるけど、急がなくて大丈夫。
あなたのペースで、ふたりに会いに行ってください。
全部読み終わった頃、もしまだ余韻が残っていたら、
深夜0時の控室で、また会いましょう。
机の、もう一つの引き出しに、 本編の余白の言葉を、そっと置いてあります。




